今回も、前回の記事と同様に国際シンポジウムの講演内容について紹介していきます。「モノづくり」という言葉を聞くと電子工作を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、今回の記事でご紹介する講演では、バイオテクノロジー、ビジネスや教育など様々なトピックが登場します。
次は、MITの博士課程に在籍するナディア・ピーク氏の講演です。これまでの製造業では規模の経済や機械工学の基本的な考え方が主流となっていましたが、デジタルファブリケーションが普及したことによってモノづくりがより身近なものになりました。また、デジタルファブリケーションを行うためのツール自体も自分で作り出せるようになった、と彼女は語ります。その一例として彼女は、自分自身が作成したスーツケース型の3Dプリンターを紹介してくれました。
六番目のスピーカーであるセルジオ・アラヤ氏はこれまでのスピーカーとは異なり、ファブラボとバイオラボの関係について語ってくれました。分子生物学は一見ファブラボとは全く関係ないように見えますが、「モノを組み立てる」という点では様々な共通点があります。例えば、合成生物学の大会であるiGEM(The International Genetically Engineered Machine competition)では、遺伝子を組み合わせて新しい機能を持ったバクテリアを作り出すことで成果を競い合います。また、分子生物学の実験に必要な器具をファブラボで作成することで、バイオラボそのものをファブラボから生み出すことも可能なのです。他にも、バクテリアを用いた自己修復する素材や、バクテリアとセンサーを組み合わせた機器など、ファブラボとバイオラボのコラボレーションの様々な例を紹介してくれました。
七番目のスピーカーは、FabLab マンチェスターおよびUK FabLab ネットワーク代表のクリス・ウィルキンソン氏です。彼は元々航空業界でエンジニアとして働いていましたが、2008年に今回のスピーカーでもあるニール氏と出会い、ファブラボに携わることを決意しました。ファブラボはインキュベータ機能を果たしており、「経済的な価値は低いものの社会に大きなインパクトを生み出すもの」が、今後ファブラボから生み出されると語りました。
八番目は、FabFoundationWorldの事務長を務めるシェリー・ラシター氏です。 彼女は元々ドキュメンタリー番組のディレクターでしたが、「語り手ではなく主役になりたい」という思いから、MITのビットアンドアトムズセンターのプログラムマネージャとして働き始め、その際にニール氏の講義に出会いました。
ここで学んだのは、必要とされる知識をその場で応用するような教育だったと彼女は語ります。ファブラボはイノベーションおよび今後の時代のための手段であり、そのために教育が必要であるという思いから、彼女はファブアカデミーを設立しました。このファブアカデミーは、遠隔教育というよりは分散教育という形をとっており、各地域に対して電話やインターネットを使って教育を行います。
さらに彼女は、ファブ財団のミッションとして「アクセスの民主化・発明するための知識・ツールの解放」の3つを掲げました。彼女は、テクノロジーをプラットフォームとして活用することで、人々の生活をテクノロジーを用いてより豊かにすることを目指しています。
九番目のスピーカーは、ナイロビの科学技術パークのチェアマンであるカマウ・ガチギ氏です。途上国ではモノづくりにおいて予算や材料が足りないという課題を抱えていますが、ファブラボを利用することでシンプルかつ安価に生活に必要な製品を作れると彼は語ります。
また、彼は政府に対してファブラボの普及を提案することで、大企業を誘致するよりもコストが低く効率が良いプロジェクトを提案してきました。具体的には、市民調査を行うための機器の作成をファブラボで受託したり、NASAのSpace Apps Challengeに参加したりといった取り組みを行っています。また、伝統的な生産方法から、ファブラボを利用した技術・デザインを駆使する方法へと移行していくことで、援助の恩恵を適切に受けられていない人々を支えることができる、とファブラボの持つ可能性についても熱く語ってくれました。
最後のスピーカーは、スペイン・カタルーニャ先端建築大学院大学(iAAc)に在籍しており、来年の世界ファブラボ会議の実行委員でもあるトーマス・ディアズ氏です。ベネズエラ出身の彼は、モノを作るプロセスやモデルを変えることで、都市を変えていくことを目指しています。彼は、各地にファブラボを立ちあげてワークショップを行うと同時に、都市自体の設計・構築も行い始めました。
2011年に、トーマス氏が在籍するファブラボ・バルセロナは、バルセロナの主任建築家としての役割を市長から任命されました。彼は「ファブシティ」という概念を掲げており、ニーズに合わせた専門性を持つファブラボを各地に設置することで、お互いに補完し合いながら都市内で解決策を提案していけるようなシステムの構築を目指しています。最後に、今年度の実行委員長である田中氏から、来年度会議の実行委員であるトーマス氏へトークンが渡されました!
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今回の記事はここまでです。最後の記事では、シンポジウムの最後に行われたパネルディスカッションについてご紹介します。